「マスク越しの声は特定の帯域の音量が『落ちる』と言われています。そのため各補聴器メーカーからも、出力調整の際はその帯域の音を少し上げるようにとアナウンスがされています。また、人は耳だけでなく、全体のうち2割ぐらいは唇の動きで言葉を聞き分けていると言われています。その視覚情報がなくなると、聞き分けの精度は健聴者でも落ちると思います。耳の聞こえに不安を感じたら、我慢せずに耳鼻咽喉科を受診してください」(北村さん)

 日本補聴器工業会は今年1月、2020年の補聴器の出荷台数を発表した。出荷台数は16年から17、18、19年と3年連続で増加していたが、20年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出控えが増え、緊急事態宣言下の5月には前年比50%台にまで落ち込んだ。宣言解除後も来店者数の低迷が懸念されたが、7月以降は前年比90%以上に推移した。

「耳鼻咽喉科からの紹介患者さんを受け入れているお店では、そもそも病院に行く人が減っているせいか、お客さんも減っているようです」(北村さん)

 命とは直接関係ないからか、軽視されがちな「難聴」。実は、生活満足度への関わりは極めて高い。声が聞こえないことによる会話の減少や刺激の低下は、社会的孤立や耳鳴り、ひいては認知症の発生原因の一つであることが医学研究で明らかになっている。そして難聴の治療には、現時点では補聴器の装用が有効であるとされている。

 にもかかわらず、日本の補聴器の普及率は極めて低い。日本の難聴者の補聴器所有率は14.4%。ヨーロッパ諸国の所有率は30~48%だ。また日本の補聴器装用者の満足度は38%に過ぎないが、ヨーロッパ諸国では70~80%の高水準にある(データは「ジャパントラック2018」「ユーロトラック2018」から)。

 日本補聴器工業会理事長の成沢良幸さんは次のように話す。

「コロナ禍におけるさまざまな感染防止対策の結果、マスクの装着やアクリル板などで会話相手の声の聞こえにくさが増したことが社会現象として取り上げられた。とりわけ、もともと聞こえにくさを自覚していながらも補聴器の使用に至っていなかった多くの加齢性難聴の方々は、唐突に悪化した聞こえにくさに強く不便さを感じたことと思われる。このような方々には、この機にぜひとも補聴器のご使用を始めてほしいと願うとともに、やはり現状で低いままの我が国の補聴器の普及率を高めることが、あらためて超高齢社会(=難聴社会)の重要課題であることを痛感する」

(文/アエラムック編集部・白石圭)

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