──トリプルアクセルすら跳べない時期があり、苦しんだそうです。

 むしろ、それが当然だと思います。例年であれば、1カ月後に試合、何週間後に試合、という予定がわかっていて、そこを目標にします。でも結弦の場合は、昨年12月末の全日本選手権までまったく試合がない状態です。ずっと好調を保つ必要もないですし、結弦にとってトリプルアクセルが本当に技術的に跳べなくなることはあり得ないので、正常なアスリートのアップダウンのひとつだと思います。技術を修正するアドバイスが必要なのではなく、結弦自身が、何を目標に、何をモチベーションにスケートをしているのかを考えれば、おのずと道が開けたのではないでしょうか。

──全日本選手権はインターネットで見たのでしょうか?

そうです。あまりに素晴らしくて、興奮しましたよ。全日本選手権の前に、彼は何度かプログラムの通し練習の動画を送ってきました。最初のうちは、まだ粗いところや、動きが馴染みきれていない部分もありました。でも試合が近づいてきた頃、本当に力強く、スピード感に溢れる演技を見せてくれて、まさに私が期待する「トータルパッケージ」といえる作品に仕上がっていました。そして衣装も仕上がり、試合本番を想定した練習もやりました。そして私たちが感想を言って、手直ししていくことを繰り返しました。結弦はそんなやりとりをすごく楽しんでくれていました。

(構成・ライター/野口美恵)

AERA 2021年4月12日号より抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
「昭和レトロ」に続いて熱視線!「平成レトロ」ってなに?「昭和レトロ」との違いは?