「新体制も、あくまで感染研・地衛研・保健所の“感染症ムラ”が中心で、大学や民間検査機関は協力を依頼される立場の脇役でしかない。シーケンスはがんゲノム医療で使われる技術を必要とするが、そうした分野のノウハウがあまりない感染研がすべてを仕切って、情報も検体も独占しようとするから、いつまでも対策が進まないのです」
コロナワクチンを開発した米モデルナも、がんワクチン研究の技術をコロナに転用したのだという。上氏はこう続ける。
「感染研はPCRを十分にできるノウハウを持っていないから、偽陽性が出るとかいろいろな理由をつけて抑制してきました。その間に世界では技術イノベーションが起きて、ますますついていけなくなっています」
感染研が“ガラパゴス化”した結果、ワクチンは作れず、PCRやシーケンスの能力も世界から周回遅れという由々しき事態に陥っているのだ。
コロナの変異株と闘うには、ウイルスゲノムの情報がこれからますます重要になってくる。前出の東大医科研の井元教授は、北海道大学の北島正章准教授とともに下水を採取して分析したところ、変異したウイルスが検出されたという。既知の変異株以外に、新たな変異が見つかっている。井元教授が解説する。
「下水ですから、無症状の人の排泄物も含まれます。陽性者で症状のある人に見られる変異を差し引けば、見過ごされてきた無症状者の変異を見つけられることになります。その中には、ウイルスの病原性を弱める変異や次に広がる変異が入っているかもしれない。たいへん重要な情報につながる可能性があります」
こうした大学や民間研究機関の知恵も、積極的に取り入れていく必要があるだろう。世界の後塵を拝する閉鎖的な体質と決別すべき時が来ている。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2021年4月16日号