急速に拡大する変異株の脅威を前に、今や日本のコロナ対策は出口が見通せない状況に突入している。厚生労働省のある官僚が表情を曇らせる。
「欧米諸国ではワクチン接種が進んだうえで変異株対策の議論をしている。ところが、日本ではワクチン接種がほとんど進んでいないのに変異株が拡大している。これでは社会不安が増大するばかりです。致死率が高いとか、子どもも感染しやすいとか、いろいろと不安材料が出てきているのに、変異株専用のPCR検査さえ全然進んでいません。対策は後手後手に回っています」
日本の感染症対策を指揮するのは厚労省の結核感染症課と、同省の直轄組織である国立感染症研究所(感染研)。その下に、各都道府県や政令指定都市などに設置された地方衛生研究所(地衛研)や保健所が連なる。こうした“感染症ムラ”によるコロナ対策は質、スピードともに世界の潮流から取り残され、もはや行き詰まっているというのだ。
象徴的なのが、変異株の検査に潜む問題点だ。厚労省の集計によれば、国内の変異株の感染者数は3月30日までに1200人に達したという。だが、この数字は各都道府県で新たに陽性が判明した人のわずか5~10%を抽出して変異株が判定できるPCR検査に回した結果に過ぎず、実態が正確に把握できているかは怪しい。
政府は今後この割合を40%に高める方針だというが、それでも十分ではない。東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの井元清哉教授はこう指摘する。
「このシステムでわかるのは、都道府県ごとの陽性者のうち変異株に感染している人の割合です。40%に引き上げれば確かに精度は上がりますが、これだけでは変異株を抑えるための対策にはなりません。変異株の割合を知ることは対策の入り口であって、本当にやるべきなのは、より徹底した検査で変異株に感染している人をもれなく見つけて隔離することです」
■最新機器使わず「手作業」で遅れ
検査のスピードにも問題がある。通常のPCRで陽性と判定された人の中から変異株PCRに回すから、二重に検査していることになる。さらに、変異株PCRの陽性者の検体は感染研に送られ、ウイルスのすべての遺伝情報を解析(シーケンス)する。この一連の作業に2週間もかかることがあるというのだ。スクリーニングにこんなに時間をかけていたら、その間に感染はどんどん広がってしまうのは明らかだ。井元教授が続ける。