「まず二重にPCRをしていること自体が時間の無駄です。マルチプレックスPCRといって、従来株も変異株も同時に検出できるキットを米国の科学機器メーカーが昨年から販売しており、世界ではそちらが主流になっている。保健所や地衛研ではピペットを使って手作業で検査していましたが、全自動のPCR検査機器もあって1日当たり8千検体を検査できる。このような全自動の機器を使えば、検査で保健所が疲弊することもなく、ヒューマンエラーを避けて検査数も増やせます」
現在、変異株PCRは各都道府県などに置かれた地衛研で行われている。調べているのは感染力の強い「N501Y」と呼ばれるもので、英国型と南アフリカ型、ブラジル型に共通する変異だ。その検体をシーケンスすることで、他の変異も見つけることができる。例えば、「E484K」という変異は南アフリカ型とブラジル型に入っていて、ワクチンの効きを弱める可能性があるといわれる。
だが、この方法には弱点がある。たとえ「N501Y」の変異が陰性でも、他にもこれまで知られていない変異は起きるものだ。起源不明の変異や日本発の変異が見つかるかもしれないのに、「N501Y」の変異がない検体はみすみす見逃されているのだ。井元教授は、できる限り多くの検体をシーケンスする必要があると説くが、ここで問題になるのが、感染研のシーケンス能力だ。
感染研はゲノム解析の人員を6人から8人に増やし、昨年12月時点で週300件だったシーケンス能力を、2月から最大で週800件に増やしたが、このペースではまったく間に合わない。
「米イルミナ製の大型の機器を使えば、1日ちょっとかかりますが1度に3千件のシーケンスができます。この機器は東大にも、他の大学や民間の研究所にもある。なぜ、感染研はこうした機器を導入しないのか。購入できないのなら、なぜ大学や企業などに協力要請しないのか。本当におかしなことばかりです」(井元教授)