日本郵政の増田寛也社長は昨年末の記者会見で、「本支社も分かっていて、目をつぶったところは間違いなくあったと思う」と述べていた。ところが、いびつな処分で決着した後の今年3月末の会見では、「日時が特定され、具体的な事実がないと(上司らの)懲戒処分には踏み切れない」と釈明した。
では、「具体的な事実」が突き止められない理由はどこにあるのか。
たとえば、懲戒処分を受けたある30代の郵便局員の場合、他の業界から転職して初めて配属された郵便局で、上司から保険販売の不正手法を「正しいやり方」として教わった。それから数年、異動した複数の郵便局でも同様の手法を続け、誰からもとがめられなかったが、おととしの問題発覚を機に厳罰を受けるハメになった。不正と思わずに問題のある営業を続けてきた郵便局員にとって、不正を教えたり黙認したりした上司たちの「具体的な事実」を立証するのはいかにも難しい。
不動産投資向け融資で大量の不正が発覚したスルガ銀行(静岡県)の場合、設置された第三者委員会が幹部らの私有メールや会議録といった大量のデータを分析し、言い逃れをする幹部たちに証拠を突きつけながら事実認定を進めた。その結果、多くの幹部が厳しい責任追及を受け、現場社員の処分では軽減が図られた。
日本郵政グループの後始末は、まるで違っていた。
旧経営陣が設置した特別調査委員会の報告書では、不正を自白した局員の多くが、上司も不正を知っていたなどとアンケートで回答していたのに、上司や本支社の幹部がいかに不正を黙認していたか、不正をどのように助長していたか、調査委員会がまともに検証した形跡がない。
担当幹部の間には、不正と疑われる契約が大量に出現しているデータが共有されていたが、当の報告書には、彼らの一方的な「言い分」と人ごとのような「論評」が並ぶばかりで、その真偽を厳しく検証した形跡もうかがえない。つまり、いちばん悪いはずの幹部らが問題発覚後に整えた主張をまとめただけの「供述調書」の様相となっているのだ。