50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、突然患った大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。人生の節目の70歳を超えたいま、天龍さんが伝えたいことは? 今回は「相撲中継と巡業」をテーマに、飄々と明るくつれづれに語ります。
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最近、ようやく花粉が落ち着いてきたね。俺はプロレスのアメリカ修行時代にテキサスにいて、その頃から「春になるとやたらとくしゃみが出るなぁ」と思っていたんだ。
それからずっと春になっても「鼻がムズムズするだけ」と言っていたけど、最近になって周りから「それが花粉症だ!」と指摘されてようやく認めるようになった。俺が花粉症になった原因は絶対にテキサスのコロコロ転がっているダンブルウィードとファンクスの家の草だ!(笑)。
さて、いよいよ今日から相撲は五月場所が始まる。また何日かは無観客になっているけど、この後はお客さんを入れてくれるのかな? まあ、力士にとってみれば、とにかく勝たなきゃ番付が上がらないし、観客の有無はあまり関係ないと思うけどね。相撲取りって、目の前の勝負に没頭するもんでね。それでも取組前は「張り手が来るんだろうな……」、「耳の鼓膜が破れたら嫌だな……」という負の思いが駆け巡るのも正直なところだ。
いやあ、現役の頃を思い出すね。次、自分の取り組みだなっていうときが一番ドキドキしてきてね、汗が脇の下からまわしのところにまで流れて、控えで立っている時に、立っている足型が汗でつくんだ。ドキドキしているのと気持ちがグッと入るので、足の裏からも汗が出る。控えから力士が出ると、その人の足跡がキレイに残っているくらい緊張しているのが分かるんだ。俺らのときには大鵬さんでも同じようなもんだったよ。
特に自分より格上の力士と対戦するときは顕著だ。でも、相撲って、手をついたり、ちょっとでも土俵から出たら負けだから「相手が横綱でも、もしかしたら勇み足で勝つかもしれない。足を滑らせて勝てるかもしれない」って思って、そこでようやく「エイ! やってやろう!」と、ようやく肝が据わって立ち上がるんだ。絶対に勝てないと思っている相撲取りはいない。