力士はそれほどの緊張感の中で相撲を取っているんだから、NHKの大相撲中継も無観客だったらブースで解説しないで客席に出てきて、力士に声が聞こえるくらいの位置で解説をすればいいと思うんだよ。お互い緊張感を持ってね。解説者の「あぁ。いまのダメですね」とかやり取りが力士に聞こえれば、変な相撲は取れないし、解説者も変なこと言えないって頑張るよ! 聞こえるところで解説者の北の富士さんに「頑張ってほしいですね」なんて言われれば、力士も「あ、俺の事頑張れって言っていた」って励みになる。
現役の力士は、解説でいろいろ言われるのは「うるせえなぁ」と思うところだけど、北の富士さんに褒められると喜ぶ力士は今でも多いだろう。こんな人はなかなかいないよ。いろいろ言っても、語り口の柔らかさでみんな味方にしちゃう。俺も見習いたいもんだね(笑)。
こんな状況だから地方巡業もなかなかできないね。相撲甚句や初っ切りが見られるのも、巡業の楽しみのひとつなんだけどね……。相撲甚句は各部屋で歌の上手いやつを若者頭が推薦される。500~600人いる力士から6人くらいだから、よっぽど声がいいとか、プロ並みに歌が上手いというやつらがやるもんなんだよ。相撲甚句はエリート部隊だ。
でも、今の若いお客さんは「後妻」とか「間男」なんていう言葉にピンと来ないから、昔は拍手が出るところで無かったりとか、俺が聞いていてまどろっこしく感じる部分もある。「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世、間男はヨセ、ヨセ(四世)」といっても通じなかったりね。昔はこぶしがきいてる歌いまわしに喜んで拍手をくれたもんだけど、今はちょっと違うのかな? 落語も古典をやるにしても、マクラに新しいいまどきのことをしゃべったりしてるから、相撲甚句も新しいことを入れないといけない時期なのかな。なかなか難しいね。
そういう面で初っ切りは新しいことをどんどん取り入れているよね。さらに、相撲甚句は6~7人いるが、初っ切りはたった2人だから、よほどセンスのあるやつじゃないとできない。臨機応変に立ち回って、プロレス技を取り入れたりしてね。時代に合わせてお客さんに飽きさせずに楽しませる。これは、センスがいるし、ちゃんとしていないと無理だよ。俺は相撲甚句や初っ切りをやりたいなんて、そんなこと思う余裕もなかったからね。地方巡業を心待ちにしているファンも多いだろうし、相撲の本場所も早くお客さんの前でできるようになるといいね。