まあ、俺はどっちにしろ退院したばかりでおとなしくしてなきゃいけないんで、五月場所は家で観戦だ。こんな時期だから相撲だけじゃなくて、ゴールデンウイークも旅行に行きたくても行けない人が多かっただろう。そういう時の旅番組はいいね。家で座ってるだけで、世界中に行った気になれる。
そんな旅番組を見ていると、昔、俺もテレビの収録で女房とスペインに行ったことを思い出すよ。トランジットでソ連に2~3時間滞在したりしてね。まだロシアがソ連だった時代だ(笑)。その時の俺は、海外といえばアメリカしか知らなかったし、国境越えのフライトを体験したことがなかったから、国境越えの乗り換え便があるのは刺激的だったよ。ヨーロッパは当然、アメリカと文化とは街も建物も食べ物も、すべてが違って楽しかったね。
そうそう、スペインで闘牛場に行ったらなぜか東スポの記者も来ていて、カメラを構えて「天龍さん、ちょっと牛にちょっかい出してください」なんて言ってきたよ。ふざけるな!(笑)。結局、その記者も車に乗せて、女房と3人で山岳地帯をず~っと走り回ったことを今でも覚えている。小高い丘が連なっている風景を見て3人で「寝っ転がっている馬場さんの背骨みたいだな」なんて言いながらね(笑)。またこんな旅行が普通にできる日が戻ってくるまで、みなさん頑張りましょう!
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。