オックスフォード大、ケンブリッジ大等をへて、現在、東大ニューロインテリジェンス国際研究機構で研究する脳神経科学者の大黒達也氏。最新刊『AI時代に自分の才能を伸ばすということ』(朝日新聞出版・刊)から特別に抜粋し、「現在のAIになくて、人間にはあること」「AI時代にこそ大切な、人間の興味・好奇心」などついてお届けする。
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脳神経科学、心理学、人工知能(AI)を用いて音楽的な芸術性について研究しています大黒達也と申します。特に、「人間の個性や創造性、才能、芸術などが、どこから生まれて、そしてどのようにして発達・成長していくのか」ということに興味をもち、研究しています。
■AIが得意なこと、人間が得意なこと
人工知能(AI)技術を用いたシステムやサービスは、私たちの想像を遥かに超えて社会に急速に浸透し、確実に私たちの日常生活を便利にしています。
今後も、人間の社会においてなくてはならない最高のパートナーとなっていくことでしょう。
現在、AIは、「情報処理」や「計算のスピード」などの効率化・最適化に関しては人間を遥かに凌駕してしまっています。
そのため、これまで人間の手で行われてきた多くの作業はAIに代替されていくことに違いありません。
さらにはAI技術の進化は、働き方や人とのつながり方、コミュニケーション手段などの社会的構造も変革させていくことでしょう。
これによりAIに恐怖を感じている人も少なくありません。
しかしこれからの社会は、これまで人間だけで行ってきたあらゆる仕事を、AIと「競合」ではなく、ともに「協働」していく時代になっていきます。
「AI時代」とは「AIと協働する時代」なのです。
では、「AIと協働」するとはどういうことでしょうか。
私たち人間同士は、会社でも家庭でもほとんど必ず誰かと協働しています。協働できる大きな理由として相手が「何ができて、何ができないか」の特性を、同じ人間同士ならある程度予測できるからでしょう。
極端な例ですが、「宇宙人」などまったく未知の生物は、何をしでかすかわからないので理解するまでは協働もできないものです。
これからのAI時代には、私たち人間がお互いの「特性」について理解し合い、そして尊重し合って生きていくように、AIの特性も理解しなければならないでしょう。
「人間」と「AI」の、お互いの「特性」や「得意」なことについて理解することが重要なのです。
「AIには何ができて、何ができないのか」「人間には何ができて、何ができないのか」を知るのです。
利用者である人間がAIをいかに正しく理解し、協働の道を見いだしていけるかが、AI時代に重要な課題といえます。