■AIと協働する時代に
現状のAIは、一般的にパターン認識や予測など、ある決まった問題を解くための特定問題解決器として人間の知的作業をサポートしています。最適性、論理性、収束的思考などの面にあたるでしょう。
一方、人間の脳はコンピュータのような最適化問題を解くシステムがあるだけでなく、予測できないような創造的なものを生み出していく能力もあります。この能力により、人間はこれまで斬新で素晴らしい芸術や発明、創作物を生み出してきたともいえるでしょう。
現時点では、こうした「創造性」では、まだ人間のほうが優れているとされています。
人間の脳は、時にコンピュータで計算しても理解できないようなアイデアを生み出すことができます。
創造性は、人間に与えられた特別な才能といえるでしょう。
ただ、いつかは「創造性」すらもAIに組み込むことが可能になるかもしれません。コンピュータの分野でも、人間の創造性を模倣するような「人工創造性」というものがあります。
その一例として汎用人工知能(AGI/Artificial General Intelligence)というものがあります。これは、特定問題解決器としての機能から解放し、答えのない問題や自由な発想ができるAIをいいます。
現代社会に広く普及している、「予測最適化」や「収束的思考」を代行するようなAIに比べ、人工創造性は比較的若い分野であり、私も含め世界中の多くの研究者がその開発に取り組んでいます。
このことから、知能と創造性という観点でコンピュータと人間の脳を比較したとき、少なくとも創造性においてまだ脳に軍配が上がるといえるでしょう。
真に人間のような創造性を発揮するコンピュータを開発するには、まず神秘的な人間の脳を完璧に理解しなければなりません。
これは、まだまだ先の未来ではないかと私は思います。
【プロフィール】
大黒達也(だいこく・たつや)東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構 特任助教。医学博士。1986年青森県八戸市生まれ。オックスフォード大学、マックスプランク研究所(独)、ケンブリッジ大学などを経て、現職。専門は音楽の脳神経科学。現在は、神経生理データから脳の創造性をモデル化し、創造性の起源とその発達的過程を探る。また、それを基に新たな音楽理論を構築し、現代音楽の制作にも取り組む。著書に『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』(光文社新書)がある。