でも病気のことを話したら弱い人間だと思われるんじゃないかとか、「お医者さんはハードな仕事だから、なるのはあきらめたほうがいい」と諭されるのではないかと思い込んで、打ち明けることができなかった。実際にそのように言われたわけではないのですが、自分で勝手に不安を膨らませてしまっていました。
ようやく伝えることができたのは、卒業の1年ほど前。きっかけは、学内の学生相談所のカウンセラーの先生でした。カウンセラーの先生には、留年を重ねるようになってから進路などの相談に乗っていただいていたのですが、やはり病気のことは話せていなかったんですね。だから何年か経って、思いがけず告白することになったときに「ずっと内緒にしていたから、なぜ言ってくれなかったんですかと責められるだろう……」と思った。
ところが「話しにくいことなのに勇気を出して話してくれてありがとう。小川さんが病気と付き合いながら学業を続けていくために力になりたいので、大変なことがあったら遠慮なく話してくださいね」と言ってくださいました。この言葉を聞いたとき、ありがたくて涙が出るような気持ちになり、ああ、病気のことを話してもいいんだと、ハードルがぐっと下がったように感じたことを今でも覚えています。
そしてそのカウンセラーの先生が、大学側に伝えるか伝えないか、伝えるとしたらどんなふうに伝えるといいか、親身になって一緒に考えてくださったんですね。その結果、スムーズにチューターの先生や教務係の職員に打ち明けることができ、思っていた以上にいろいろ助けていただきました。
特に、医学部の実習ではさまざまな診療科をまわるのですが、チューターの先生が各科の責任者の先生方に事情を伝えてくださったことが大変ありがたかったです。うつ病でエネルギーが低下していたため、自分から何かを申し出たり、助けを求めたりするのは本当に難しい状況だったので。そうした温かい支援があったからこそ、何度もあきらめかけた医学部の卒業を何とか実現できたのだとつくづく感じ、感謝が尽きない気持ちです。
――カウンセラーがきっかけだったのですね。
はい。学生相談所は入学時のオリエンテーションで配られた冊子に紹介があったのが印象に残っていて、ある日、大学内の掲示か何かを見て自分から行きました。気軽に相談できる場が身近にあったことは救いになりました。
――病気のことは、大学の友だちにも伝えづらかったですか?
そうですね。留年するたびに下の学年のみなさんと同級生になるのですが、在学中は誰にもうつ病だと伝えることはできず、授業を休んだときも「原因不明の体調不良が続いていて病院で診てもらっている」などと説明していました。僕自身、打ち明けられる準備ができていなかったのだと思います。
ただ、友人も先生も、それ以上踏み込んであれこれ詮索(せんさく)したり、休んでいることを責めたりすることはけっしてなく、適度な距離を保ってくれていました。自分自身は本当のことを伝えられていないので申し訳ない気持ちや後ろめたさも感じていたのですが、そんな中でも友人は心配してくれて。久しぶりに大学に行けたら喜んでくれたり、体調を気遣ってくれたりしたことに、今でもとても感謝しています。
※続きは、後編【医学医学部時代に「うつ病」 14年かけて医師になった男性が語る「習慣を立て直す」課題】へ
(文・熊谷わこ)