受け入れ先が見つからない時は見つかるまで車内で患者に酸素吸入を続けるという。

「時間がかかるので、救急車に搭載している酸素が無くなり、新しいものを取りに戻ることも何度かありました。また、入院先が見つからない時に備え、救急車で酸素吸入を長時間、できるよう準備して出動することもありました。細心の注意と対策をしているのですが、コロナの患者さんと接する時間が一気に長くなり、どうしても感染の確率が増えているような気がします」

 中には病院が見つからないことで、患者やその家族が国や大阪府のコロナ対応のまずさに対する怒りを救急隊員にぶちまけることもあった。返答に困ることもしばしばあったそうだ。そんな中、Aさんは実質的な「命の選別」を強いられている高齢者にかけられた言葉が今でも忘れられないという。

「酸素吸入した女性高齢者の受け入れ先を必死で探していた時です。『コロナの人がたくさんいる。私のようなおばあちゃんに構わず、若い人を助けてあげて』とおっしゃられました。2時間ほどで病院が見つかった時も『私は最後でいいから…。ベッドが足りないのでしょう』『こんなおばあちゃんにありがとうね』と息も絶え絶えで感謝の言葉を伝えられました。なんで、こんなにひどい状況になってしまったのか。これは人災ではないかと思うと怒りが込み上げました。救急医療のぜい弱さを思い知らされました」

 大阪市消防局によれば、これまで職員がコロナに感染したのは100人を超えるという。大半が感染経路は不明。亡くなった男性も、同様だという。職員のワクチン接種状況は、5月31日段階で医療従事者に該当する3500人のうちで1回目を終了したのは2404人、2回目の終了は1271人だった。Aさんもすでにワクチン接種2回を終えているという。

「今回、お亡くなりになられた先輩は、1回目を受けていたにもかかわらず、感染した。すごくいい先輩だったと聞いています。自分は2回目を終えて正直、ホッしています。6月になり、状況は落ち着いてきましたが、インド株などの変異種はこれまでと感染力が違うという報道があります。これまで以上に気を引き締めたい」

(AERAdot.編集部 今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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