専門家の間でも評価する声が多い。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員は、組み合わせが新鮮だったという。
「60歳現役から65歳現役へ移行したときも、企業年金を“つなぎ”に使う考え方はありました。でも、それを60代後半にずらして公的年金の繰り下げとセットにしたことが新しい」
「同一労働同一賃金」が絡んでくる可能性を指摘するのは、FPの山崎俊輔氏だ。
「この考え方が浸透してくると、能力的には50代のころとさほど変わらないので、60代の賃金が必然的に上がると私はみています。すると『W』に上乗せする『P』も軽くなり、DBなどが10年の有期でピッタリはまる会社が出るのでは、と思います」
ところで、冒頭のAさんは、ただただ驚くばかりである。自分が思い描いていた年金の世界が“理論化”されていることを知ったからだ。
「WPPですか? まったくの初耳ですね。でも、公的年金という生涯もらえるものを増やして老後の生活を安定させるというのは、まさに私が考えたことでもあります」(Aさん)
柔軟に考える点もAさんはしっかり先取りしている。現在はパートで働いていて、夫婦ともに70歳まで働くのが当初の計画だったからだ。
「夫が辞めて貯蓄を取り崩していますが、夫は余裕を取り戻して平和に生活できています。まあまあ、といったところです」(同)
同じような考え方が同じころ、自然発生的に出て、実践者も現れる──。WPPはパズル化する年金の一つの「解」になるかもしれない。(本誌・首藤由之)
(以下次号)
※週刊朝日 2021年7月2日号