石合さんは機会を見つけては、彼らに「ヤス」こと豊田とのプロジェクトについて話を聞きに行った。誰もが「ヤスのためなら」と協力的だった。欧州総局長時代は政治経済文化などすべてをカバーする立場にあり、地の利もあって取材がしやすかったという。
「豊田さんは実に魅力的な人で、世界の人と渡り合い、ビジネス本が書けるほどのノウハウを持っています。音楽ホールは何百億円ものプロジェクト。それを名だたる建築家を動かしながら進めていくのだから、素晴らしい才能ですよ。大変な気配りの人でもあります。だから巨匠たちとも通じ合えるのでしょう。巨匠たちも豊田さんには敬意を払い、親しみを示し、協業として仕事を進めていました。そこにはよい意味でのパートナーシップがあったと思います」
本書には「音楽」と「音響」の関係から、豊田の人柄、仕事における歩みとその醍醐味、プロジェクトの詳細、巨匠たちとの真の信頼関係のありようなど多彩な内容が盛り込まれており、音楽ファンならずともおもしろく読める。
少年時代から大の音楽好きだった石合さん。今でも仕事の合間にコンサートへ通う。ちなみにテルアビブでの取材後は経由地のウィーンに寄ってワーグナーを聴いたそうな。音楽ファンならそうでなくては!(ライター・千葉望)
※AERA 2021年6月28日号