AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
世界で名だたる音楽ホールの音響設計を担い、著名な指揮者やオーケストラの信頼を一身に集めてきた豊田泰久。新しい音楽ホールの建築プロジェクトが始まると、必ずと言ってよいほど豊田に声がかかると言われる。なぜ彼はそれほどの信頼を集めるのか。『響きをみがく 音響設計家 豊田泰久の仕事』では、豊田の仕事を追いかけてきた音楽好きの新聞記者が、綿密な取材をもとに描き出す。著者の石合力さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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2015年のある土曜日、朝日新聞の別刷り「be」に、永田音響設計ロサンゼルス事務所代表の音響設計家・豊田泰久の2ページにわたる人物ルポが載った。コンサート通いをする人には知られた人物である。筆者名は「石合力」。この人も音楽好きに違いない。「この記事では短すぎる。本にすればよいのに」と思った。幸い、それが実現した。
「豊田さんを知った時は、『こんなに凄い人が日本のメディアではまだ大きく紹介されていないのか!』と驚き、執筆テーマとしてダイヤモンドの原石を見つけたような思いでした。私が中東アフリカ総局長の任務を終えて日本に帰任する時に、たまたま『イスラエルのテルアビブでホールを改修したのですが』と連絡をもらい、帰国用のチケットをルート変更して、テルアビブで取材しました。その後、いろいろなところへ同行させていただくようになったのです。単発の記事にも書きましたが、それでは紹介しきれない部分がたくさんありました」
と話すのは著者の石合力さん(56)。豊田が音響設計したコンサートホールは国内ではサントリーホール、ミューザ川崎、札幌のKitaraホールと、音響が良いことで知られている。海外でも指名を受け、数々の名ホールの音響設計を担い続けてきた。
豊田を頼りにするのは指揮者のサイモン・ラトル、ダニエル・バレンボイム、エサ=ペッカ・サロネン、ワレリー・ゲルギエフ、ピアニストのクリスチャン・ツィメルマン、建築家ではフランク・ゲーリーら。いずれもその道の「巨匠」たちである。