こうした要因によって体温調整機能が崩れることで、体内から熱を逃がすことができなくなり、体温が上昇してしまいます。暑い環境下であることに加えて、スポーツや肉体労働の要素が合わさって発症する熱中症を「労作性熱中症」ということもあります。
労作性熱中症は、アスリートや消防士、農業労働者、工場や工事現場の作業者といった労働者、兵士など健康な若者に最も多く、仲間やコーチからの動機付けやプレッシャーなどは、生理的な能力を超えて行動することを促すため労作性熱中症の危険因子となることが指摘されています。音楽フェスなどのイベントでの飲酒も危険因子です。
初期症状の段階で、涼しい場所に移動し、水分や塩分補給を適切に行えば、重症化することはありません。しかし、肝臓や腎臓などに障害が起きてしまう段階まで進んでしまえば、最悪、死に至ってしまうのです。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のShimizu氏らによる2020年の夏の新型コロナウイルス感染症の流行と熱中症による搬送件数を調べた調査があります。それよると、2020年7月からの再感染拡大に伴い、8月にはCOVID-19の入院者数が再び1600人を超え、この間に、東京での緊急搬送件数は8月上旬から中旬にかけて徐々に増加し、8月11日(第33週)に93件、8月16日(第34週)に101件と、熱中症による搬送患者が増加した時期に対応していることが分かったと言います。
日本でもワクチン接種が進められている一方で、6月中旬からコロナ感染者数は下げ止まっています。五輪の開催によって第5波へと発展する可能性も示唆されています。
例えば、10月にずらして東京五輪を開催すれば熱中症の心配はなく、ワクチン接種も今より進んでいるでしょう。世界各国のあらゆる対策を参考にし、国内での感染対策に反映させていれば、昨年末から日本でもワクチン接種を開始していれば、前向きにオリンピック開催について議論できたと思うと残念でなりません。万一、このまま開催するのであれば、コロナ以外の健康上の対策もしっかりと行って欲しいと思います。
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員