淡々と説明するのは流の仕事を手伝った弟子たち。前回案内してくれた弟子は亡くなっていたが、心のこもった素朴な説明が胸を打つ。いつでも誰でも見られるわけではないが、機会があればぜひこの感動を味わって欲しい。

 流の作品といえば、ニューヨークの世界貿易センター前にあった世界最大級の石の彫刻、「雲の砦」。永遠に変わらぬ平和の象徴だ。数ある流の作品の中で私が愛するのは前川國男設計の東京文化会館の小ホールにある「昇り屏風」。アイデアを聞かれた流は、煙草の箱から銀紙をとり出し幾重にも折り重ねてみせたという。緞帳のかわりに石の折り重なった美しさ!

 一九二三年二月十四日、バレンタインデーの生まれ。二〇一八年七月七日、七夕没。眼光鋭く、包み込む優しさと大きさ。女性に大モテで、寂聴さんも恋文を書いている。私もあるパーティと修善寺の旅館で二回会った。吸いこまれるようなときめきを感じる男だった。

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

週刊朝日  2022年12月16日号

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