おおた・ひかり/1965年、埼玉県生まれ。88年、大学の同級生の田中裕二と爆笑問題を結成。著書も多く、9月に『芸人人語 コロナ禍・ウクライナ・選挙特番大ひんしゅく編』(朝日新聞出版)を上梓した(photo 写真映像部・加藤夏子)
おおた・ひかり/1965年、埼玉県生まれ。88年、大学の同級生の田中裕二と爆笑問題を結成。著書も多く、9月に『芸人人語 コロナ禍・ウクライナ・選挙特番大ひんしゅく編』(朝日新聞出版)を上梓した(photo 写真映像部・加藤夏子)
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 自分の思いを言葉で伝えることは難しい。そう感じている人は少なくないだろう。SNSで気軽に発言できるようになっても、自分の気持ちが相手に伝わっているとは限らない。そんなもどかしさを、言葉にこだわってきた人はどう思っているのだろうか。芸人・太田光さんに聞いた。2022年12月12日号の記事を紹介する。

【写真】今の世の中を独創的視点でぶった斬る太田光さん

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 瞬時に場の空気を読み、アドリブで返す言葉で評価が定まる。「芸人は言葉が命」とつくづく思う。中でも言葉にこだわりを感じる芸人が漫才コンビ「爆笑問題」の太田光さん(57)だ。

 何事も簡単にわかりやすく伝えるのがよし、とされる時代。でも、それでは伝わらないことが多い、と太田さんは嘆く。

「太田は回りくどいってよく言われるんだけど、簡単な言葉では伝えられない。だって、世の中で起きていることって、ほとんどが簡単なことじゃないからね」

 そこに「言葉のジレンマ」がある。太田さんにとって言葉とは「真実へのヒント」にすぎないという。

「言葉を手掛かりに、本当に伝えたいことを探る感じかな。例えば、『悲しい』と口に出して言った瞬間、それ以外の感情は抜け落ちてしまう。でも、実際には『悲しさ』だけで表現される感情なんてないのに」

 無限ともいえる感情のグラデーションの中で、人に伝えるときはわかりやすい言葉を選ぶことになる。しかし、それは常に真実からは少しずれている。

「言葉を連ねることでなんとか伝えようとして言葉は増えていくんだけど、絶対に全部は伝えきれない。だから言葉はヒントにすぎない。一つのヒントぐらいに思えば、そんなに言葉に苦しめられることもないと思います」

 世論が一方向に流れていると感じると、あえて時流に逆らう発言を繰り出すのも太田さんの持ち味だ。昨年の東京五輪の開催直前、同級生や障害者に対するいじめを過去の雑誌で発言していたミュージシャンの小山田圭吾さんが開会式の作曲担当を辞任した。このときも、太田さんは火の粉を浴びるのを承知で行き過ぎた「小山田批判」を難じた。

「彼は今、目立たないところで音楽活動に復帰しているとは思うけど、あの件だけで社会から抹殺するのかと思うと、俺はやっぱり、それおかしいよ、と言わずにはおれないんです」

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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