先日の講演でも、そこかしこに、私の話にうなずいてくれる人がいました。特に私の目線の先にいる中年の女性がいちいち、笑顔でうなずいてくれるので、うれしくなりました。しゃべっているうちに、私の内なる生命のエネルギーがたぎってきました。それと一緒になって会場のエネルギーも上昇します。このダイナミズムが素晴らしいのです。

 一時期、新型コロナウイルス感染防止のためにオンラインでの講演をやらされました。これはとても味気なかったですね。ネット上で場を共有しても限界があります。

 講演が終わると一緒に写真を撮りたいという人、サインを求める人、ハグしようという人が集まってきます。うれしいことに、ほとんどが女性なのですが、1人だけ大男がいました。私の患者さんです。肺がんで苦しみましたが、最近は調子が上がっています。しかし、こんな遠くまで……。「先生、やっとここまで出られるようになりました。それにしてもいい話だった。来てよかった」とにっこり。私の胸にじわーっと熱いものがこみ上げてきます。これだから、講演はやめられません。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年7月9日号

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