
と、ここまで書いてきたものの、雅子さまの着る服なのだから、色も形もお好きなものを着ればよいことだとは承知している。余計なお世話と知りつつ、白続きが少し気がかりなのだ。
ファッションと元気さとは比例する。長年、「会社に何を着ていくか」に悩んだ者としての実感だ。元気なら出勤前の服選びも楽しい。が、そうでないと、考えるのも億劫(おっくう)だ。そんな観点で雅子さまの誕生日ごとに公表される写真をご成婚から見ていくと、やはり服装は元気のバロメーターだと思う。
「適応障害」と公表された前後(2003~05年)は写真の公表はなく、06年に復活してからも控えめな色の服装が多かった。それが代替わりの決まった17年にワインレッドになり、令和になった19年はゴールド、20年は光沢あるパープル、21年は再びゴールドと“華やか”が定番に。それが一転、22年が白で、誕生日以後も白が続いている。
■「プレタ路線に戻った」
元朝日新聞記者でジャーナリストの堀江瑠璃子さんは、文藝春秋2月号に寄稿した「美智子さま・雅子さま・愛子さま『華麗なるお召し物の系譜』」で雅子さまの最近のファッションについて言及していた。59歳の誕生日ファッションについては、「新調されたらしい(もしかすると、プレタポルテ)へちまえりの白のスーツ姿で、インナーも白、それに二連の真珠のネックレス、真珠のピアス」と描写し、「かつての雅子さまのセンスとは違うような」とも書いていた。
ポイントは「もしかすると、プレタポルテ」だと思う。プレタポルテ(=高級既製服)に対し、皇室ファッションの王道は「オートクチュール」と堀江さん。オートクチュールの定義は後述するが、雅子さまのそれへの第一歩を堀江さんは、1994年の中東訪問時の鮮やかなグリーンのロングジャケットととらえていた。そして、いったんはそこに踏み出したものの、体調の悪化で「プレタ路線に戻ってしまったよう」だと指摘する。
グリーンジャケットのどこがよかったか。「自分を表現され始めたのを感じた」と堀江さん。皇室ファッションに「主張」を求めているのだと思う。オートクチュールを辞書で引くと、「高級衣裳店。また、そこで仕立てられる高級注文服」とある。「注文し、仕立てる」。何を? 自分そのものを。自己を表現し、着る。それが皇室ファッションと、この記事で理解した。
堀江さんは、雅子さまのファッションセンスを高く評価している。だから「現在の雅子さまのファッションは、さびしくて物足りない」とし、「女性のおしゃれ心は、元気な時こそ機能するもの。どうか早く元気を取り戻してほしい」と書いていた。
体調は本人にしかわからない。そのことを承知の上で拝察するなら、うさぎをお忍びで見にいく雅子さまの笑顔からも、体調は悪くないのではないだろうかと思う。その上で、雅子さまに「主張するファッション」を求めるのは私も同じだ。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2023年2月6日号より抜粋