「現実の世界でどういう現象が起きているのか、まだはっきりとした情報はありません。今後、欧米などワクチンの接種率が高いところでも急激に感染者が増えれば、これはおかしいぞということになると思います。臨床医の感覚として第4波でアルファ株(英国由来)が出てきたあたりから、若い人でも重症例が増えている印象がある。重症化を防ぐためにも、ワクチンを接種しておく必要があることに変わりはない」
ラムダ株は6月15日時点で29カ国に広がっているが、現時点で日本での検出例はない。東京五輪の開幕まで3週間を切り、現在、各国から選手団が続々と入国している。水際対策が機能するかどうかが焦点となるが、五輪向けの水際対策は「対デルタ」に偏っている。デルタ株が流行するインド、スリランカ、ネパールなど6カ国を対象に、出国前の7日間、毎日ウイルス検査することを要請。入国後3日間は一緒に来日する選手・コーチ以外と接触しないように求める一方、ラムダ株に対してはほぼノーガード状態だ。厚生労働省のある官僚がこう嘆く。
「現在の水際対策のように、特定の国だけ出国前検査を強化するのは意味がない。ラムダ株に対してザルになりますし、デルタ株もいまや世界中に広がっており、対象になっていない国からすり抜ける。科学的に考えればすべての国を対象にしなければおかしい。政治決断で五輪をやると決めた以上、感染対策も責任をもって緻密にやるべきですが、ここに至っても後手に回っている」
6月19日に成田空港に到着したウガンダ選手団のうち2人が新型コロナに感染していたと判明。1人は空港の検疫をすり抜けており、政府が言い募ってきた「安全・安心な大会」という建前は早くも破綻している。東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)が指摘する。
「新型コロナウイルスの潜伏期は5、6日間ですから、出国時の空港や飛行機の中で感染したら、到着時の検査では陰性になります。出国前7日間の検査も本当に全員がきちんとやっているか、確認しようがないでしょう。やはり、入国後10~14日間は合宿地に合わせた行動制限、望ましくはホテルでの待機が必要です」