東御市の合宿では3人という少人数の指導ということもあって、細かい泳ぎのテクニックについて意思の疎通ができています。青木はターン、タッチも含めてレース全体をイメージできる段階にきています。五輪の大舞台で力を発揮するためには、セルフコントロールが非常に重要です。自分の状態を知って緊張感の中で自分自身をコントロールできる能力です。朝の決勝を想定したルーティンやウォーミングアップも自分のペースで迷わずできています。東京スイミングセンターで練習していた小学生のころから長年にわたって指導してきた青木ですが、五輪を目前にしてようやくセルフコントロールの力を身につけてきたようです。
コーチの仕事は競技者の成績を伸ばすことですが、人間としても伸びていってほしい、という思いがあります。競技以外の部分で成長を感じたとき、本当にいい結果が出ることがあります。女子平泳ぎは世界のタイムが上がっていて、青木の今の記録では五輪の決勝に残れるかどうかというレベルですが、成績とは別に成長のプロセスという物差しで考えると、確かな手応えを感じています。
(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数
※週刊朝日 2021年7月16日号