指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第76回は、「競技以外の成長」について。
【写真】長野県東御市の合宿で青木玲緒樹の指導をする平井コーチ
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いよいよ東京五輪が開かれる7月になりました。標高1750メートルの準高地にある長野県東御市のGMOアスリーツパーク湯の丸の合宿で、萩野公介、青木玲緒樹(れおな)、大橋悠依の3人に絞って、五輪に向けた仕上げの強化を続けています。
6月26、27日、3人は県内高校生の大会が開かれている長野市のアクアウイングで、タイムトライアルのレースを泳がせてもらいました。朝に決勝がある東京五輪対策として、2日間の模擬レースを行いたいとお願いしたところ、県の高体連、水泳連盟のみなさんが、あたたかく迎え入れてくださいました。
これまで五輪前の6月は欧州の大会を転戦してレース感覚を磨いていましたが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大で海外遠征ができなかったので、タイムトライアルの機会を与えていただいたことは、大変ありがたく思います。
個人メドレーでメダルを狙う萩野と大橋にとって、予選から決勝まで2日間にわたり争う五輪を想定したレースが今の時期にできたことで、本番までの課題が明確になったと思います。
今回は26歳の青木の独り立ちを実感できたことが、うれしい収穫でした。
2日目の日曜の朝、青木の100メートル平泳ぎのタイムトライアルは、前半の飛び出しからいい泳ぎができて、いままでで一番速いタイムで50メートルを折り返す勢いでした。ところが35メートル過ぎで泳ぎを変えてブレーキがかかりました。これは青木のレースではよくあることで、初の五輪代表を決めた4月の日本選手権も85メートルまではよかったのに、そこから泳ぎを変えてタッチの差で敗れていました。
長野の会場で泳ぎ終えた青木に35メートル過ぎからの変化について話をすると、「いやあ、あそこはターンを合わせようとして、あわてて泳ぎを変えちゃったんですよ」と即答しました。えっ?と思いました。2019年世界選手権4位の実績がある選手ですが、これまではレース後に泳ぎのことを聞いても、「そうでしたか?」というような反応ばかりだったからです。