一昨年の台風19号の影響で土石流が発生し、12人の死者・行方不明者を出した宮城県丸森町。実家が全壊した菅野由香理さんは、原因の調査を続けている。町内では141カ所の土砂崩れが発生していたが、最近になって発生源に共通の要因があることに気づいた。

「土石流災害が起きる前から、雨が降ると山から泥が流れてくることがあったんです。それで地域の人は『山の奥で木を切ったからじゃないか』と言っていました。発生直後から発生源に注目していたところ、多くの場所で大規模な森林開発が行われていたことがわかりました」

 菅野さんと共同で現地調査をした、自伐型林業推進協会の中嶋健造代表理事は言う。

「熱海の土石流発生源も盛り土の上に敷設された道路が崩壊したように、地形を無視した道は土砂崩れを引き起こします。丸森町でも、土石流の発生源は大規模に森林を伐採する皆伐(かいばつ)地や木材を運搬する時などに使う作業道や林道が原因でした」

 そこで、同協会が土石流被害の大きかった丸森町廻倉(まわりぐら)地区の土砂崩れ発生現場をグーグルアースの衛星写真で確認すると、同地区では54カ所の土砂崩れがあり、このうち53カ所が皆伐地や林道、作業道が発生源になっていた。人工林や広葉樹林の崩壊は1カ所だけだったという。

 同協会では、昨年7月の豪雨で大きな被害を受けた本県球磨村も同じ手法で調査している。すると、確認できた183カ所の土砂崩れのうち、9割以上が林業施業を原因とする崩壊だった。中嶋氏は言う。

「皆伐地の作業道だけではなく、植林してから5~20年程度の森も崩壊していました。皆伐後に植林をしても、スギやヒノキが地中に根を張るまで20年以上かかるためです。植林してから40年以上経過した未整備林や放置林が災害の原因になると言う人もいますが、丸森町や球磨村では、未整備林や放置林はほぼ無傷でした」

 大規模な森林破壊が相次いでいる背景には、政府が掲げる「林業の成長産業化」がある。政府は現在、木材自給率を25年までに50%まで引き上げる目標を掲げているが、19年の自給率は37.8%。目標達成は困難になっている。その差を埋めるために木材生産量の増加に必死になっているのだ。

「数年前なら、大規模な皆伐は山深いところが多かった。それが、最近では人里に近い所でも行われています。大面積な森林伐採を止めない限り、今後、熱海のような災害が増えるのは間違いありません」(中嶋氏)

(本誌・亀井洋志、西岡千史)

週刊朝日  2021年7月23日号より抜粋

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