体内型の補助人工心臓の装着イメージ (小野教授提供)
体内型の補助人工心臓の装着イメージ (小野教授提供)
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「白内障ですね。濁った水晶体を取り出して、眼内レンズを入れましょう」「リウマチで膝関節が変形しているので、人工関節にしませんか?」

 これらはSF映画の話ではない。実際の医療現場で、すでに行われているやりとりだ。

 体の壊れた部位を人工物で置き換える技術が近年、急発達を遂げている。一般社団法人日本人工臓器学会のホームページには人工肺、人工すい臓、人工骨、人工血管などが紹介されている。人類がサイボーグ化する未来も遠くないと思えてしまうが、今の技術で人体はどこまで交換可能なのか。

 人工臓器は大きく2種類に分けられる。入院中や手術中など一時的に臓器の機能を補う体外式のものと、体内に植え込んで日常生活を送るものだ。

 前者に分類されるのが、人工肺や人工すい臓。特に人工肺「ECMO(エクモ、体外式膜型人工肺)」は新型コロナウイルスによる肺炎の治療で一躍有名になった。血液を体外の装置(人工肺)に通し、酸素と二酸化炭素のガス交換をするものだ。

 一方、よりサイボーグ的なイメージに近いのが、人工関節や人工弁、人工血管、人工骨、人工内耳などの日常生活のパートナーとなる人工臓器。人工関節の素材はチタンやステンレスといった金属で、人工血管は布状の化学繊維など。いずれも本物に近い形状だ。人工弁は炭素材料などでできた「機械弁」のほか、ウシの心膜やブタの心臓弁を使った「生体弁」もある。日本人工臓器学会の妙中義之前理事長が解説する。

「栄養を合成・貯蔵・分解したり、消化液やホルモンを出したりと数多くの『化学的作用』を担う肝臓やすい臓のような臓器は複雑な仕組みで、小型化して体内に植え込むのが難しい。一方で骨や関節、血管、心臓の弁などの『構造物』は、比較的シンプルで、植え込み型の人工物を作りやすい。人工内耳やペースメーカーなど、電気刺激によって体内の『物理的作用』を担う人工臓器も植え込み型が多いです」

 人工臓器をもってすれば、なんと心臓がなくても一定期間生きられるという。東京大学医学部附属病院の小野稔教授(心臓外科)がこう語る。

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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