取材した大学院生のもうひとりは、内田詩織さん(24歳)。関西学院大学社会学部出身だ。学部で学んだ社会心理学のおもしろさに魅了され、メディア志望だったのが一転、公認心理師をめざすことになった。履修した科目が公認心理師に対応していることが認定され、桜美林大学大学院を受験、2020年に入学した。
「企業のメンタルヘルスに興味があり、労働者が健康に、主体的に働けるための心理的支援にかかわりたいと考えていました。産業保健の専門家がいる大学院はほとんどなく、ここしかないと関西から東京に来ることに。現在は復職支援(リワークプログラム)を実施している医療機関で実習に参加しています」(内田さん)
修士論文は、「働くことの自律性に注目したワークモチベーション尺度」。仕事のモチベーションを客観的に測る方法を探る研究で、数多くの英語論文を翻訳中だ。内田さんは大学時代にフィリピンに語学留学するなど、これまでもやりたいことを積極的に行動にうつしてきた。
「公認心理師は新しくできた制度である分、道を切り開いていける仕事だと思います。だからこそ、色々な経験を積んだ人がなるといいと思うし、そうあってほしいです」(内田さん)
桜美林大学大学院心理学実践研究学位プログラム(博士前期課程)には「ポジティブ心理分野」と「臨床心理分野」の2コースがある。ポジティブ心理分野では、アメリカで1998年に誕生したポジティブ心理学を学ぶことができる。
「ポジティブ心理学とは人間のポジティブな一面に着目し、通常の人生をより幸せに、充実したものにするための方法を研究する学問です。これを生かした仕事としては障害のある人への支援やヘルスプロモーションなどが一例で、働く場所としては子どもから高齢者の施設、公的機関や企業まで幅広く、研究者としての活躍も期待されます」(久保義郎教授)
臨床心理分野は臨床心理士の養成コースとしての歴史があり、公認心理師と臨床心理士、両方の受験資格を取得できる。
災害支援や企業のメンタルヘルスなど異なる専門性を持つ教員がおり、こうした特性を生かしつつ、「多職種連携」の力を身につける授業に力を入れている。
「災害では直後から、長期間にわたる心理支援が求められます。これには地域の保健師やボランティアの方々などとの連携が欠かせません。こうした点を普段の医療・保健、教育、福祉領域の生活支援として、実習を通じて学んでもらいます」(池田美樹准教授)
2人とも2022年7月に実施される第5回の公認心理師試験を受ける予定だ。20年に実施された第3回の試験の合格率は53・4%。真面目に勉強してきた人であれば合格率は高いと言われている。彼らのように「学びたい」と思ったそのときがチャンス。やる気がある人にはぜひ、公認心理師をめざしてほしい。
(文・狩生聖子)
※アエラムック『大学院・通信制大学2022』より