50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、2019年の小脳梗塞に続き、今度はうっ血性心不全の大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。人生の節目の70歳を超えたいま、天龍さんが伝えたいことは? 今回は「オリンピック」をテーマに、つれづれに明るく飄々と語ってもらいました。
【写真】東京五輪に負けない!?こちらの試合で天龍さんはこの盛り上がり
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東京オリンピックが開幕したね。選手には、無事に競技を終えられるように祈っているよ。俺は毎日テレビで応援だ。
さて、前回大会の東京五輪は1964年、俺が上京して相撲部屋に入って1年後に開催されたんだよね。しかし、俺は当時の秋場所で足首を捻挫して、そのケガを治すのに一生懸命で、オリンピックを全然見ていなかったんだ。
日本中でオリンピックにわいていたけど、まだ序二段だった俺はそれどころじゃなかったし、上京してすぐに、高速道路ができて、川が塞がれて、どんどん姿を変えていく東京を目の当たりにしていたから、オリンピックも「どうせまたすぐやろうだろう」と高をくくっていたんだ。俺が40歳になるくらいにはまたやっているんじゃないかって。まさか、自分の人生のギリギリ、徳俵に足がかかっているころになって、ようやく見られるとは(笑)。
そうそう、前回の東京五輪だけでなく、1970年の大阪万博も開催中に大阪にいたのに見に行っていないんだ。そういうのに乗らない天邪鬼(あまのじゃく)な俺がカッコいいと思っていたんだろうね(苦笑)。
でも、大阪万博の何年か前に会場予定地に連れて行ってもらったことはある。「ここが万博の会場になって、新御堂筋ができるんだよ」って、なんにもないただの雑木林を見せられて(笑)。その後に万博を見ていれば感慨もあったんだろうけど、肝心なところを見ていない。
五輪も万博も見るチャンスがあって見ていないことをいまだに女房から「あんたは本当に変わってるわー!」と馬鹿にされるよ(苦笑)。こんなところでも“周回遅れの天龍”だな……。その頃は相撲の世界にどっぷりだったから、「俺は世間一般とは違う世界にいるんだ」とテンパっていた自分がいたのも事実だ。今回は、その頃の思い出も振り返ってみようかな。