相撲部屋に入ってから東京の中学校に転入したんだけど、相撲取りは学生服で素足に下駄で登校しなきゃならないから、すごく恥ずかしかったことを覚えている。学校が終わったらすぐに相撲部屋に戻って掃除や洗濯、ちゃんこ番、兄弟子の雑用をしなきゃいけなくて、放課後に学校の友達と遊ぶこともなくてね。部屋に戻るのが遅いと兄弟子から「この野郎! 学校に行ってサボりやがって!」と怒られるんだ。中学生が学校の用事をこなすとサボったことになるんだよ(苦笑)。
相撲部屋で兄弟子というのは絶対でね。後に二所ノ関部屋の親方になった金剛こと吉沢は、俺より半年くらい遅く入った弟弟子なんだけど、彼の方が2~3歳年上。俺と吉沢は体が大きくて将来を期待されていたようで、親方から目をかけられてかわいがってもらった。
といっても、期待されていた分だけ、全体の稽古が終わっても「嶋田と吉沢はこの後に三番やれ」と言われて、稽古が続くんだ。それで俺が負けると「弟弟子に負けやがって!」と竹刀で叩かれる。弟弟子といっても、俺が14歳で吉沢は16~17歳、体も彼の方が全然大きいんだから、こっちはたまったもんじゃない。
毎日、稽古のあとの稽古が本当に嫌だったなぁ……。それで全体の稽古が終わると裸足で部屋を逃げ出すこともあったよ。両国橋を越えて浜町公園のあたりまで逃げてね。まわし一丁でうろうろしているところをよその部屋の親方に見つかって「そんなみっともない格好で外を歩くな!」と怒られたこともあったっけ。
俺は13歳で相撲に入ったけど、それから3年くらいすると高卒で入ってくる新弟子もいる。彼らからしたら俺は2~3歳年下だけど兄弟子だ。当時は高卒で相撲に入ってくるのはタバコを吸っていたり、酒を飲んでいたりする輩(やから)ばっかりだ。二所ノ関部屋ではタバコはご法度だったから、15~16歳の俺が18~19歳の新弟子に「お前ら! タバコなんか吸ってんじゃねぇ!」なんて、怒ったりしてね(笑)。18歳のヤツが15歳のヤツに偉そうにされて、どうせ陰で文句を言われていたんだろうな。