そんな状況だが、なぜか彼には期待したくなる。真っすぐで、純粋に努力し続ける実直さを持つ松元の人柄もあるが、何より名伯楽・鈴木陽二コーチが彼を支えているからだ。ソウルオリンピックでは鈴木大地氏を金メダルに導き、バルセロナオリンピックで岩崎恭子氏が金メダルを獲得した裏には、この人のひと言があったという。2018年のアジア大会で6冠を果たし、MVPに輝いた池江璃花子を支えていたのも鈴木コーチである。

 勝負のポイントは150mのターン。松元がここでトップか、もしくはトップに頭ひとつ程度の差で食らいついていればチャンスはある。このターンでの位置が、まさに金メダルへの分水嶺となることだろう。

 元世界記録保持者の渡辺一平の日本記録を更新して五輪代表の座を勝ち取った、佐藤翔馬も目が離せない。現世界記録保持者のアントン・チュプコフ(ロシア)が頭ひとつ抜けているものの、佐藤はこの2年で自己ベストを一気に4秒も縮めている。驚異的な伸び率は、佐藤に表彰台の頂点を期待するのには十分過ぎる理由だろう。勝負の分かれ目は、松元同様150mのターンだ。ラスト50mで驚異的な追い上げを見せるチュプコフに対抗するには、ここで身体ひとつ以上の差をつけることが勝利への最低条件である。その差を作ることができるかどうか。彼の思いきりの良さに期待したい。

 メダル獲得のダークホースは、男女200mバタフライだ。男子は瀬戸に加え、若手の本多灯の調子が良い。6月末に出場した大会で自己ベストをマークして勢いに乗る。女子は、昨年のISL(インターナショナルスイミングリーグ)で大車輪の活躍を見せた長谷川涼香だ。昨年、4年ぶりとなる自己ベストを更新し、2019年世界選手権の優勝タイムを上回った。それでもボグラールカ・カパーシュ(ハンガリー)、ハリ・フリッキンジャー(アメリカ)に張雨霏らの中国勢と強豪が勢揃いのこの種目でメダル獲得は至難の業。長谷川がメダルを獲得するには自己ベストが必須。調子を合わせ、予選、準決勝、決勝の3レースで、いかに体力を残しつつ、周りの選手たちにプレッシャーを与えられる戦いができるかどうかが大事なポイントになるだろう。

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不安要素は経験不足?