「死生観というと大げさになりますが、人間誰しも一度はあちらへ逝くと私は思っています。早く逝くか、遅く逝くかの違いはありますが、それは自分で決められるものではありません。中国のいい方に従えば天命ということになります。今日私が生きていられるのは天命がさせているのであり、明日私が死ぬのも天命です。ただ、この瞬間、生きていられることに感謝し、それを心から喜ぶだけです。与えられた人生を楽しく、一生懸命に今日を生き切るしかありません。やれるだけのことはする、あとは……という気持ちです」(『太極 この道を行く』海竜社)

 先生は、いま生きていることを天命だと思い、深い感謝の気持ちをお持ちだったのです。その気持ちが自然に伝わるので、一緒にいて実に楽しかったのです。

 80歳を過ぎた頃から、ぐっと死が身近になりました。今日が最後だと思って生きると、いまを生きていることへの感謝の気持ちが深まります。

 よりよく老いる、つまりナイス・エイジングとは、いまへの感謝の気持ちを深めることなのではないでしょうか。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2022年12月9日号

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