神田伯山
神田伯山

「アルゼンチンでもパラグアイでも、こういう研究で日本から来た人がいるとなると、わざわざ時間を割いて資料がある場所を調べてくれたり、休日に遊びに連れていってくれたり、本当によくしていただきました。日系の方々の故郷を懐かしむ気持ち、自分たちのルーツへの関心を感じました」

 1902年に渡米し、その後世界各地を転戦、パリの大衆劇場での柔術対レスリングの異種格闘技試合に出場し全戦勝利して「サムライの柔術王者」と呼ばれた福岡庄太郎。晩年はパラグアイに移住した福岡の貴重な資料にも、そうした人脈の果てにたどり着いた。

 実は福岡は、人気講談師の神田伯山さんの先祖にあたる。

 藪さんはNHKの番組「ファミリーヒストリー」の伯山さんの回(2020年4月27日放送)に登場し、福岡に関する資料を披露することにもなった。

「井上章一先生に選評で『グローバル化の端緒が、混沌の坩堝とともにあったことを、うかびあがらせている』と書いていただいたのですが、まさにそういったカオスな様態を中里介山の『大菩薩峠』のように、ひとびとのさまざまな願望や欲望が複雑に交差し反復するマンダラのような方法で描きたかった」

 そう語る藪さんだが、今後も研究したいテーマがたくさんある。

「今回の本で明らかにできたことは氷山の一角で、海外には日本には残されていない資料が膨大にあります。『柔術狂時代』の続編をぜひ書きたい。それ以外にも、昭和・平成の世相や風俗と絡めた戦後日本格闘技史の問い直しができたらと思っています」

書籍編集部・小柳暁子)

週刊朝日  2022年12月9日号