フェンシングを始めると、
「空手のような対人競技が好きで、それでいて、空手ほどは危険じゃないし、痛くない。子どもだから剣を振り回すのは好きだし、楽しい競技」
と気に入った。練習であっても、どんな試合でも目の前の相手に負けたくないという負けん気の強さも競技に向いていた。
見延には、フェンシング選手として圧倒的に有利な身体的な特徴がある。それは、腕の長さだ。見延は身長177センチで、190センチ台もいるエペでは小柄な部類に入る。両腕を広げて端から端まで測ると、通常なら身長とほぼ同じ長さになるが、見延の場合は197センチと20センチも長い。1年前から1センチ伸びたといい、
「まだ成長中。2メートル超えたら病院に行こうかな」
と冗談めかして話す。
高校の同期で、男子サーブル日本代表の徳南堅太(デロイトトーマツコンサルティング)は、こう解説する。
「当時から手が長かった。フェンシングは剣の先に触れられただけで負けになってしまうので、圧倒的に有利」
相手選手は通常の距離感とは違い、予想を超える長さのため戸惑うのだという。
それに加え、見延はその特徴を生かすために、フレンチグリップと呼ばれる剣を使用する。剣にはピストルのように握るベルジアングリップと、柄が棒状のフレンチグリップと呼ばれる2種類がある。フレンチはベルジアンに比べて、長く持てるという利点がある一方、操作性は難しい。
見延はより長く見せるようにするために、フレンチを選ぶ。劣る操作性は手首を使いながらカバーするのだが、
「普通の選手ならば手首のけがをする。外国人選手ならタブーとする動きだ」
と北京五輪男子エペ代表で現日本代表コーチの西田祥吾は指摘する。
持ち前の体の強さがあるからこそ可能な見延だけの動きなのだ。肩甲骨の可動域が広く、通常の選手よりも動きがダイナミックだという。
こうした能力に加え、海外での武者修行が見延を変えた。12年ロンドン五輪で出場権を逃すと、
「このままではいけない。自分が変わらなければ……」
と韓国、イタリアに武者修行に出た。日本ではフルーレのほうがメジャーで、エペは競技人口が少なく、指導者も少ないからだ。