一方で不安が残ったのはやはり投手陣だ。メジャーでの経験が豊富ということから田中将大楽天)を先発に送ったが、ストレートの勢い、変化球の精度ともに好調時に比べると明らかに物足りなさがあり、序盤も相手の拙攻に助けられたという印象が強い。また大会前に稲葉篤紀監督が投手陣のキーマンとして名前を挙げていた青柳晃洋(阪神)がドミニカ戦に続いて失点し、今後厳しい場面では使いづらい状況だ。そしてこの2人を交代させるタイミングも少し遅かったように見えた。短期決戦では少しの判断の遅れが命取りとなるだけに、早め早めに攻める継投が今後は重要になってくるだろう。

 ただ投手陣も明るい材料はある。故障明けで状態が心配されていた千賀滉大(ソフトバンク)が2回を投げて無失点、5奪三振と圧巻のピッチングを見せ、ドミニカ戦で失点を喫した抑えの栗林良吏(広島)も失点して当たり前というタイブレークの場面で登板して見事に無失点で切り抜けたことは今後にとって非常にプラスと言える。またこの2人の間に登板した山崎康晃(DeNA)、大野雄大中日)も1点も与えられない場面でしっかりと力を発揮した。先発の状態が不安だと感じた場合は、メキシコ戦で見事な投球を見せた伊藤大海(日本ハム)も含めて彼らを早めにつぎ込むことも検討すべきである。

 なかなか点の取れなかったドミニカ戦は重苦しいスタートとなったが、打線がしっかり機能して得点力が上がってきたのは喜ばしい限りである。しかし“打線は水物”という言葉もあるように、特に短期決戦では打ち続けて勝つことは簡単ではなく、投手がしっかり失点を抑えることが重要になってくる。アメリカ戦では少し後手に回った部分もあっただけに、準決勝の韓国戦では展開によってはどんどん投手をつぎ込んで失点を防ぐような攻めの継投も必要になってくるだろう。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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