東京五輪はメディアやネット上では盛り上がっているように見えるが、実際には温度差が生まれている。同調圧力で関心のなさを隠したり、周囲と合わせる程度の興味だったりする人が少なくない。AERA 2021年8月9日号から。
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「温度差」を初めて感じたのは、もう7年以上前になるだろうか。
受験の難関を乗り越え、東京都内の名門中高一貫校に息子が合格。新しい生活の一歩となる入学式で、ふと気づいた。
「どうして保護者じゃない人たちがいるんだろう」
都内に住む50代女性は、周囲を見渡してそう感じた。
入学式では当時、学園理事長を務めていた男性があいさつした。そして、“じゃない人”たちの胸元にちょこんとつくバッジを見て、「なるほどな」と合点がいった。
<TOKYO 2020>
あいさつをしたのは、式の3カ月前に東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の事務総長に就任したばかりの武藤敏郎氏だった。
「2014年に入学した中学生たちが、高校を卒業するのは、ちょうど20年の五輪イヤー。その年に大学生になるのだから、自覚を持とうというノリが学校全体にありました」(女性)
武藤氏が理事長を務めた開成学園は、東大合格者40年連続1位の学校としても知られている。卒業生の進路はもちろん、その家族の経歴も華やかだ。
それもあってか、五輪への意識も独特だったという。
「五輪を開催するうえでのステークホルダーにもなるような、霞が関や広告会社などに両親や親族が勤めているというクラスメートも多くいました。だから、開催が楽しみだというより、“五輪の中の人”という感覚が強いんです」(女性)
■運動能力に関心なし
一方で、女性はそこに乗り切れなかったという。
「他人の運動能力に関心がないんです。保護者たちが五輪のことを話しているときは深入りしない程度に話を合わせて、うっとうしくなったら離脱していました」
五輪に関心がない保護者は他にもいたかもしれない。だが、波風は立てまいと、同じ思いを持つ保護者と意気投合することはなかった。