アーチェリー女子個人で優勝した韓国のアン・サン(c)朝日新聞社 
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 東京五輪に出場した女子アーチェリー韓国代表のアン・サンが、混合団体、女子団体、個人で金メダルを獲得して韓国初の五輪三冠に輝いたにもかかわらず、「男性を嫌悪するフェミニスト」とネット上で誹謗中傷を受けた一件は大きな反響を呼んだ。

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 アン・サンがネット上で批判の標的になった理由は短髪だった。韓国では「短髪の女性はフェミニスト」という偏見があるようだが、他にも原因があるという。

「韓国では女性に兵役義務がないことに対し、20代の若者を中心に『不公平だ』という声が高まっています。金メダルを獲得したアンは嫉妬の標的になった格好です。反フェミニストの過激な思想を持っている人間だけではなく、兵役義務がある一部の男性たちが現状に不満を感じて書き込んだのでしょう」(韓国駐在の通信員)

 今年の4月19日に青瓦台(大統領府)のホームページに「男性だけでなく、女性も兵役に就くべき」と訴える国民請願が掲示されると、29万人以上が賛同して注目を呼んだ。若い時期に兵役生活に入り、女性に比べて就職や社内の出世争いで不利だと感じる男性の不満が噴出した形となった。

 1953年に朝鮮戦争が休戦して北朝鮮と対峙している韓国では、男性の兵役義務が憲法で定められている。満18歳から徴兵の対象者となり、特別な理由がない限り、満28歳になるまでに一定期間、軍隊に所属し国防の義務を遂行しなければならない。ただ、兵役免除の特例が受けられる条件があり、スポーツ要員は五輪3位以内の入賞者、アジア大会1位入賞者(団体競技の場合、実際に出場した選手だけが該当)と定められている。

 韓国の男性アスリートは勝利を目指して国際大会に出場しているが、兵役免除になっても韓国国民の感情を慮り発言が慎重になる。デリケートな問題なのだ。

 18年のジャカルタ・アジア大会では、金メダルを獲得した男子サッカーと野球の韓国代表にネット上で不満の声が噴出する事態が起きた。U-23サッカー代表にオーバーエイジ枠で加わった26歳の孫興民、野球韓国代表の28歳の呉智煥が兵役免除の特例の対象となったことに、「兵役が免除になる可能性のあるアジア大会まで入隊せず、代表に選ばれた」、「アジア大会の金メダルで兵役免除になり、世界的に活躍しているBTSが免除されないのはおかしい」などの書き込みが見られた。

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