コロナ禍にもかかわらず開催された東京五輪は終幕した。YouTuber「せやろがいおじさん」は、政府がコロナ禍の五輪成功を美談として語り、これまでの様々な問題をうやむやにするのではないかと危惧する。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号から。
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国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が「五輪が始まれば歓迎してくれる」と発言したとき、僕たち国民はばかじゃないんだと腹立たしい気持ちになりました。でも、いざ五輪が始まると、マスコミは五輪を持ち上げる報道ばかり。メディアが総出になって楽しむ方向に発信するので、世の中にそのムードが蔓延(まんえん)しています。
日本は「空気」に依存してきた国です。五輪で不祥事が起きるたびに誰かが辞任しますが、問題の本質を見極めた上での決断ではありません。批判が高まっているという空気だけを読んで、幕引きするために謝罪や辞任という手段をとります。だから同じことを繰り返すし、女性蔑視で辞任した森喜朗さんを組織委員会の名誉最高顧問になんて声も出てくるのだと思います。
コロナの感染対策も空気頼みでした。PCR検査数は増えず、隔離も徹底されない。最後の砦(とりで)のワクチン接種も予定どおりに進んでいません。それでも感染が抑え込めていたのは、「コロナが怖いから対策をしよう」という国民の空気があったから。でも、それも限界です。大阪市の松井一郎市長が五輪をするなら修学旅行を実施してもいいと話したように、今はその空気すら壊れてしまった。もうすがれるものはありません。
政府や組織委は五輪で子どもに夢や感動を与えたいと掲げています。でも実情は違います。
たとえば、東京五輪のビジョンの一つに「多様性と調和」があります。日本の現状を見ると、人権感覚に優れた国だというアピールに余念はありませんが、難民認定率は極端に低い。LGBTの理解増進法案ですら先延ばしになったままです。