争点の一つが、佳菜子さんの額にあった傷が原因と思われる、階段付近の28カ所の血痕だ。寝室にはないため、寝室でのもみあいの後に負傷したことがわかる。この血痕について、検察側は「階段から突き落とされたときにできた」、弁護側は「自殺する前、階段で転ぶなどしてケガをした」としている。
つまり、佳菜子さんが額にケガをした時すでに意識を失っていたならば検察側の主張どおり、逆に、意識があり活動していたのならば弁護側の主張どおり、となるわけだ。
二審は前者と判断し、有罪を言い渡した。その理由は、「額に傷を負ったら血を拭うのが自然だが、被害者の手には血がついていない。意識がなかった証拠だ」「活動中の傷であれば相応の出血量がある。顔に血が流れた痕跡がないのは、脳死状態で負った傷だから」などというものだった。
10月27日の最高裁での弁論で、朴被告の代理人・山本衛弁護士は、上告の際に提出した新証拠について言及した。佳菜子さんの搬送先の病院から取り寄せた遺体のカラー写真には、顔に「血が流れたような奇妙な赤い跡」が残っていると示し、「顔面に血の痕跡があるということだけで原判決の論理が崩れる」と主張したのだ。
そして、約30分間の陳述をこう結んだ。
「原判決は著しく不合理で破棄を免れない。では、差し戻して何になる? 他殺の証拠が新たに発見されることはないでしょう。自殺の証拠も動きません。これ以上は無意味です。無罪の自判をしてください。朴さんを、4人の子どものところに早く返してください」
弁論から1カ月足らずで下った「差し戻し」判決を受け、山本弁護士は報道陣を前に、率直な思いを口にした。「判決前の朴さんとの最後の面会で、『次は(拘置所の)外で会えるといいね』っていう話をしました。有罪判決が破棄されたのは喜ばしいですが、無罪の自判には至らなかったのは残念です」
いっぽう判決文の詳細については、「差し戻し審に対してこの判決がどのような示唆を与えているのか、その解釈は一筋縄ではいかない」として、コメントを控えた。