講談社の漫画誌「モーニング」元編集次長(現在は退職)で、『GTO』などのヒット作を手がけた朴鐘顕(パクチョンヒョン)氏(47)は2017年1月、妻殺害容疑で逮捕された。一審、二審ともに懲役11年の実刑判決が下ったが、朴被告は一貫して無実を主張。本誌は昨年から、公正な裁判を求める被告や支援者らの訴えを報じてきた。そして11月21日、ようやく最高裁が「待った」をかけた。
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「判決を宣告します。原判決(二審判決)を破棄する。本件を東京高等裁判所に差し戻す」。静まりかえった最高裁の小法廷に、厳粛な声が響いた。「原判決には、審理を十分に尽くさなかった結果、重大な事実誤認をした疑いがある」
元裁判官で法政大学法科大学院教授の水野智幸氏は、「今回のような最高裁判決は非常に珍しい」と話す。「殺人のような重大事件で、有罪→有罪と進んできたのに事実誤認を理由に差し戻すのは、10年に一度あるかないかというレベル。私の知る限りでは、2010年の平野母子殺害事件の判決以来です」
異例の裁判になることは、6月の時点で予想されていた。最高裁では大半の事件が書面のみで審理されるなか、弁護側・検察側の意見を直接聞く「弁論」が開かれると発表されたのだ。これは二審判決が見直される可能性が高いことを指す。
朴被告の妻・佳菜子さん(当時38歳)は夫に殺されたのか。弁護側と検察側の主張は真っ向から対立している。
弁護側によると、16年8月9日未明、朴被告が仕事を終え帰宅すると、産後うつを患っていた佳菜子さんが錯乱状態に陥っていた。包丁を手に子どもに危害を加えようとしたため、朴被告は制止しようと1階の寝室でもみあった後、子どもを抱いて2階の子ども部屋に避難。数十分後に部屋を出ると、佳菜子さんは階段の手すりに巻きつけたジャケットに首をかけ、自殺していたという。
一方、検察側は「被告人は寝室で妻ともみあいになった末に首を絞めて脳死状態に陥らせた。その後、事故死を装うために階段から突き落とした」と主張している。