山本草太(22)/男子2位の合計257.85点。SPは1位の96.49点、フリーは6位の161.36点だった
山本草太(22)/男子2位の合計257.85点。SPは1位の96.49点、フリーは6位の161.36点だった

 スケート靴は、靴の裏にブレード(刃)をネジで留める仕組みになっている。靴を新調した時は1~2ミリ程度の位置を調整するものだが、試合直前に変えることはあり得ない。しかし、この日は最後まで望みを捨てず、エッジの向きを調整。ほぼぶっつけ本番の状態で臨んだ。

 結果として、4回転5本のうち4本を降りると、総合279.76点で、SP2位から逆転優勝を決めた。改めて、振り返る。

「僕が完璧主義かどうかは、自分でもわかりません。ただ、気持ちと技術の差が自分を苦しめることもあるので、そこは直したい一面。でも、より高みを目指すことで、五輪後も失速せずにスケートと向きあえているのは良いところだと思いました」

■SPの4回転を2本に

 一方、宇野と共にGPファイナル進出を決めたのは山本草太(22)だ。幾度ものけがを経て迎える5度目のNHK杯。宇野は山本について語る。

「草太君とは練習でよく一緒になります。スケートとの向き合い方や不調の原因とかを話しながら、練習に励んできました。草太君の練習がすばらしいので今年はトップ争いに参加してくると思っていました」

 山本は今季からSPの4回転を2本に増やし、世界で戦える構成にした。演技直前の待ち時間では果敢にトリプルアクセル(3回転半)や4回転を跳んだ。

「去年までは1回転や2回転で調整していましたが、氷に降りて一発で跳べないと本番も跳べないと思いました」

 体力の温存を考えずに攻める気持ちが、今季を象徴していた。SP本番では、見事に2本の4回転を降りガッツポーズ。96.49点で首位となった。

 フリーは進化と課題の両面を見せた。3本の4回転を成功させたものの、トリプルアクセル2本は転倒。不安なまま得点を待った。257.85点で銀メダル、GPファイナル進出が確定すると、傍らで見守っていた宇野とグータッチ。こう誓った。

「ジュニアのころは昌磨君と国際大会に出場していたので、懐かしい気持ち。良いお手本が身近にいるのでたくさん吸収しながら頑張りたいです」

(ライター・野口美恵)

AERA 2022年12月5日号より抜粋