たまに、「あの橋は俺が造った」とか「ひと頃一世を風靡(ふうび)したものだよ」とか、過去の仕事の自慢をする人がいますが、ちょっと派手な服を着ている人、程度の印象で、服が人間の価値を高めているようには見えません。

 もし、人に語れるようなことがしたいのなら、ボランティアとして奉仕活動をされるのが適切でしょう。見返りを求めない作業の方が、仕事よりは少し偉いといえます。でも、人に語れることが見返りになっているとしたら、それほどでもありません。

 そんなことよりも、自分の趣味に没頭して、俺はこれをやった、と自分一人で悦に入(い)る方が、よほど健全なのではないか、と僕は思いますが、いかがでしょうか。

■やりたい仕事を諦めるべきか?

【相談2】
 20代後半の女性です。現在の会社には、もともと企画志望で入社をしました。

 ところが、入社して以来ずっと営業部門に配属され続けています。強い意志で会社を辞めるなりすることも考えたのですが、今以上に待遇の良い会社で企画の仕事をできる保証もなく(むしろその可能性は非常に少ないでしょう)、行動に移せずにいます。

「置かれた場所で咲きなさい」の心情にも近いのですが、この方針で、20代の若い時期を過ごして、のちほど後悔しないかどうか不安です。

【森博嗣さんの答え】
 仕事というのは、自分一人で決められない、他者との関係の上に成立しているものですから、全員がそれぞれ、すべて納得のいくようには運びません。それはわかっていらっしゃることと想像します。「強い意志」かどうかはわかりませんが、夢を追うために転職するかどうか、という判断は、メリットとデメリットを確率的に天秤にかけることになります。

「後悔しないようにしたい」というのは、よく聞かれる言葉ですが、いくら考え抜いて決断しても、運が悪いときには、その判断が間違っていた、と考えがちです。でも、それは単なる結果論にすぎません。もともと、そういったリスクは考慮されていたはずなので、あとは確率の問題です。馬券を買っても当たらなかったから、別の馬に賭けておけば良かった、と後悔するのと同じです。

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人に諦められたときの対処法