「突っ慳貪(つっけんどん)な印象を持たれ、好感度ダウンとなること必至だろう。だが、好感度を上げたいという欲求は僕には皆無なので、まったく影響を受けずに書いた」
『すべてがFになる』『スカイ・クロラ』数々のベストセラーを生みだした作家・森博嗣氏の新刊『諦めの価値』(朝日新書)からの言葉だ。現在森氏は、労働時間は毎日1時間で、幼い頃からの夢だった「庭園鉄道」(庭に敷設する鉄道模型)を整備する毎日を送っている。森氏が夢を叶えられた理由は、仕事や人間関係など多くを「諦めた」からだという。森氏にとって「諦め」とは何なのか? 森氏に寄せられた人生相談を本書から一部抜粋して紹介する。
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■人を諦めるのが早い自分
【相談1】
私は、人間関係をさっさと諦めてしまう人間です。仕事関係でも、友達でも、ちょっとした違和感や嫌なことが重なると、すぐにシャッタを下ろしてしまうのです。
ところがふと気がつけば、一緒に旅行にいったり、気軽に食事にいけたりする友人が誰もいなくなっていることに気がつきました。こうした自分の性格は、どうやったら治るのでしょうか。
【森博嗣さんの答え】
治す必要がありますか?
人間関係を諦め、一人で生きていく、一人で楽しめる、と考えれば良いだけですし、実際にも、そんなライフスタイルの人は大勢います。何故、旅行に誰かと一緒にいかなければならないのでしょうか? 何故、食事に誰かと一緒にいかないといけないのですか? 誰がそんなことを決めましたか? 一人だと、どんな悪いことがあるのですか?
誰かの意見を聞いて、それが本来の人間のあるべきスタイルだ、と思わされたのですね。それこそ、人間関係として最初にシャッタを下ろすべき場面だったことでしょう。
■自分の人生、このままで良いでしょうか?
【相談2】
定職もあり、家族もいる40代です。基本的には、順調な人生だと思っているのですが、ふと「このままで良いのだろうか」という考えが過(よぎ)ります。なにかほかの人生があったのではないかと。