サンペイさんは、「いやあ、暗算が弱くて」と、はにかんでいたが、その脳中の計算機は「夕日くん」と同じく、女性が絡むと変調を来すようだった。そういえばサンペイさんの漫画には、男どもが思わずニヤリ、クスリとする類いのお色気ものが多かったが、下品ではなかった。

 これは朝日新聞の「フジ三太郎」でも同じで、夕刊で連載が始まった昭和40(65)年当時は、「朝日新聞ともあろうものが」という抗議がずいぶんあったという。79年、朝刊に移ると、「朝っぱらから何事ですか」というお叱りの電話、はがきがさらに来た。さすがのサンペイさんも「パンティーは描きにくくなった」そうだが、平成3(91)年の連載終了まで、ひるむことはなかった。95年、当時の朝日文庫に収録された作品集『オトコのホンネ 夕日くん』のなかで、作者自身が次のように記している。

「夕日くんはエッチです。男性なら女性のハイレグやらミニを見ればドキッとし、クラクラッとするものです。それを正直に告白するからエッチと言われるのです。ただ、夕日くんは女性の体はもちろん、ドレスのすそにも、故意に手で触れることはないのです。自然に触れたように見せかけるのは許されるとしても、指一本でも許可なく触れるのは暴力です。暴力はユーモアやウィットや諷刺の敵です。夕日くんは、私同様、心やさしいフェミニストだと思います」

 いまの時代、いかにフェミニストの夕日くんでも「正直に告白」したらアウトである。サンペイさんは時代の流れを読みつつも、ささやかな抵抗をしていたかもしれない。

 長谷川町子さんの「サザエさん」が家庭漫画と言われるのに対して、サンペイさんの漫画はサラリーマン風俗漫画。日本の所得倍増・高度成長・バブル経済の時代に照応するといった言い方をする向きもある。現に、東京駐在だった外国人記者から「日本の国民感情を知るために毎朝いちばんにフジ三太郎に目を通したものです」と聞いたことがある。もちろんエッチばかりではなく、時の政治に異を唱えたり、流行に水を差したり、正義派の面目躍如たる漫画も多かった。

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