「かつて日本人は、自然は抗(あらが)えないものと考え、自然と共存し、災害時には皆で助け合い避難していました。しかし5千人を超える死者・行方不明者が出た59年の伊勢湾台風を機に、61年に災害対策基本法が制定されます。その中で、防災は『行政の責務』としました。それ以降、災害が少なくなったこともあって、住民の行政依存が高まり当事者意識を持てなくなりました。当事者意識が低下した中で、避難指示が出ても自分は大丈夫という『正常性バイアス』が働き、避難しなければいけないとわかっていても、行動にまで移せなくなっているのです」

■主体的な動きが大切

 だが甚大な自然災害が多発する今、行政にできることはもはや限界がある。浸水被害だけでなく土砂災害などあらゆる災害に、一人ひとりが避難に対し主体的に動くことが大切だと説く。

 主体性を持つにはどうすればいいのか。片田特任教授は「守るのはあなたの命だけではなく、あなたの大切な人の命も、と考えてほしい」と語る。

「災害時にあなたが必ず避難することを家族や友人など大切な人が知っていれば、結果的にその人たちも自分の命を守ることに力を尽くし、皆が助かる確率が高くなります。自分が避難することは大切な人の命も守ることにつながる、そう考えたときに初めて、犠牲者がゼロになる防災ができます」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年8月30日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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