延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』」について。

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 パンデミック、ウクライナ戦争、格差社会など、不確実な世の中にあって、本を読むことで自らを見つめ、思考を深める傾向になったのだろうか。

 活字に接する機会が減り、「本離れ」といわれて久しいが、全国学校図書館協議会の学校読書調査によると、今年5月の小中学生の平均読書冊数が30年前に比べて倍増したという。男女別ランキングでは、計7巻の壮大なファンタジー小説『ハリー・ポッター』が小中高を通じ愛読されている。

 アジア初の舞台公演となった『ハリー・ポッターと呪いの子』を観た。

 地下鉄赤坂駅を降りると、サカスエリアは魔法がかけられたような幻想的な風景に既に舞台が始まっているような錯覚に陥り、ハリー・ポッターシアターへの階段を上りながら、自分も颯爽(さっそう)とマントをひるがえすホグワーツ魔法魔術学校の生徒になった気分になった。

 原作者J・K・ローリングは脚本のジャック・ソーンと演出ジョン・ティファニーとともに「映画の舞台化でも原作のミュージカル化でもなく、全く新しいオリジナルの演劇」を目指したとパンフレットで語る。物語の核心に置いた問いは「次に何が起こるのか?」。誰もそれはわからない。だからこそ、「その問いが人生の本質」

 オリジナル・ストーリーが終わったところから始まる『ハリー・ポッターと呪いの子』は2016年ロンドンでの初演以来、5カ国6都市で上演され、史上最多のオリヴィエ賞を獲得した。しかし2020年3月に突然の中止。まさに「何が起こるのかわからない」。新型コロナで世界は一変した。そして、今年上演の舞台が掲げた問いは、再び、「次に何が起こるのか?」

 家族の絆、連帯と友情のみが困難に打ち勝てる。そんな志で日英スタッフが結集、総勢48人のキャストが稽古に打ち込み、シックで華麗な舞台装飾、奥行きのある音響のもと、複雑で精緻(せいち)なファクターが積み重なり、巨大な空想魔法世界が構築された。

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