登場人物が時空を超える瞬間、大きなステージ全体がふと揺らぎ、あっと声を出してしまった。こんなの観たことがない! 世界最高峰のエンターテイメントとはこういうものなのだと思った。
セリフのそこかしこにあるユーモアにほっとしながら、客席の子供たちが目を輝かせている。彼らは忘れられない経験をしていた。
当日は旧知の石丸幹二がハリー・ポッターを演じていた。闇に立ち向かう子供たちを見守り、人生の道筋を示す役。ハリーは幼い頃に孤児になり、そのトラウマを手なずけながら育った。父となったハリーはやたら魔法を使うことをしない。息子アルバスの奔放さに戸惑い、悩み、どこにでもいるお父さんになっている。
「僕たちの現実を見ても、親子や兄弟、友達が苦しんでいても気づかないことがある。特に親しい存在ほど相手が見えなかったり」と石丸は語った。「親としてまだまだ未熟。でも実に人間臭く、魅力にもなっている。息子との関係を通して、自分も器の大きな人間になろうともがくハリーの姿を描けたらと思います」
それこそが石丸の表現する親子の繋(つな)がりなのだろう。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年12月2日号