■叡王戦でも両者は激突
藤井が豊島と長時間の対局を指すうちに自身の課題が見つかったというのは、真実なのだろう。王位戦第1局は藤井が完敗。「全体的にもうちょっと工夫が必要だった」と反省していた。
豊島と藤井の激突は現在進行で続いている。豊島に藤井が挑戦する叡王戦五番勝負では第2局、豊島が逆転勝ちで底力を見せた。また第4局では豊島が完勝。2勝2敗で決着は9月13日の最終第5局へと持ち越された。
もし豊島が叡王を防衛して藤井を突き放せば「やっぱり豊島は強い、藤井もまだまだ」という声が出てくるだろう。
藤井は現在、竜王戦挑戦者決定三番勝負に進出。永瀬を相手に1勝し、豊島竜王への挑戦権獲得まであと1勝と迫っている。もし藤井が竜王戦にも名乗りをあげてくれば、豊島にとってはピンチともいえるだろうし、また逆に返り討ちにするチャンスともいえる。
藤井は21年度内に最大、六冠まで獲得できる可能性が残されている。冬の王将戦、棋王戦で防衛の立場に回るのは渡辺。そこにもまた藤井が登場することもありうる。
「いまは藤井君にどう勝つのか、そこを解決しないことには、僕も無冠になるでしょう」
渡辺はそうも語っていた。
■続く「三すくみ」の関係
渡辺は豊島、豊島は藤井、藤井は渡辺に勝ち越すという「三すくみ」の関係はまだ続いている。その限りにおいては、「藤井一強」と言うにはまだ早い。しかしもし藤井が豊島との対戦成績でも勝ち越し、渡辺からもタイトルを奪えば、時代はいよいよ名実ともに藤井時代の幕開けと言ってもおかしくはない。
さて、こうした記事の定跡として触れておかなければならないのは、藤井自身が興味があるのは盤上の真理であって、以上に述べてきたような棋界の状況や記録などについては、一切無頓着だということだ。
もし藤井がこれから史上初めて10代で三冠、あるいはそれ以上となったとしても、あるいは力及ばずにどこかで敗れたとしても、報道側の過熱ぶりとは対照的に、「新たに課題が見つかった」と、今までどおりの言葉を繰り返すだけだろう。(ライター・松本博文)
※AERA 2021年9月6日号より抜粋