
ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『ダイエットをしたら太ります。』(永田利彦著、光文社新書 924円・税込み)を取り上げる。
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コロナ禍の巣ごもりで太ってしまった、ダイエットしなきゃ、と思っている人も多いだろう。ましていまは馬だって肥える秋だもの。
ところが、ダイエットには効果がないどころか、むしろ太るというのだから恐ろしい。永田利彦は『ダイエットをしたら太ります。』で、さまざまな研究データをもとにこのパラドックスを証明する。著者は摂食障害が専門の精神科医。
ちなみにダイエットとは減量のために食事を制限すること。英和辞典を引くと、治療のために規定食を食べることも含むが、運動による減量には用いないそうだ。
なぜダイエットをすると太るのか。実はそのメカニズムは単純だ。食べるのを我慢して体重を減らすと、全身の細胞はそれを飢餓状態として認識する。次に食べるチャンスがめぐってきたときは、しっかりエネルギー源として溜め込もう、と細胞は学習する。だからダイエットをすると太りやすい体質になる。
ダイエットは我慢だから、ストレスとなる。ときどきストレスに負けて食べてしまう。生存本能だが、食べると罪悪感に囚われる。リバウンドして太ると、より過激なダイエットに走ってしまう。以降、ダイエットとリバウンドの繰り返しでますます太りやすい体質になる。
もちろんすべての人が悪夢のスパイラルに陥るとは限らない。なかにはリバウンドしない、奇跡的に意志の強い人もいるかもしれない。だが我慢して理想の体型を維持する人生が幸福かどうかはわからない。
著者は過剰な痩せ志向社会に警鐘を鳴らす。痩せすぎはからだに悪い。小太りが一番長生きなのだそうだ。
※週刊朝日 2021年9月10日号