■客席減らす管理費減案
7会場の年間維持費は計約50億円だ。負のレガシーを乗り越えるには、どうすればいいか。
森山さんは、まずは国や都が、国立競技場はすでに「負のレガシー」になっていると認めること。その上でライフハック、つまり効率的な取り組みをしていく必要があると説く。
「最も有効なのが、観客席を減らすことです。国立競技場は耐震構造の関係で上段と下段とに分かれているので、例えば上段を外して観客席を3分の1程度減らし規模を小さくします。そうすれば、維持管理はしやすくなり、管理費もかなり削ることができます」
民営化は、国立競技場はアマチュアスポーツのための施設という性質から言って馴染まないだろうという。その上で、スポーツと医療を合体させた「スポーツメディカルセンター」の併設について言及する。
「アスリートは、幼少期から無理なトレーニングをしていて健康を害しているケースが多くあります。それにもかかわらず、そのジャンルの医療は伸びていない。スポーツメディカルを充実させることで、科学的根拠に基づいたトレーニングと栄養、けがをしない体作りをサポートできます」(森山さん)
現在、国立のスポーツメディカルセンターは、01年にできた「国立スポーツ科学センター(JISS)」(東京都北区)のみ。森山さんは、その規模を拡大し、運動公園と病院とをセットにした施設を国立競技場に併設して、「スポーツメディカル」の聖地にしてはどうかと提案する。
「しかも、運動能力や筋力の維持は高齢者の健康にも関係しているので、高齢者介護にもつながります」
■儲からないから公共で
スポーツ政策創造研究所代表で国士舘大学客員教授の鈴木知幸さんは、レガシーを経費の問題に矮小化させてはいけないと言う。
「スポーツ施設は収益性が低く、基本的に儲かりません。儲からないから公共でやるのです。その儲からない施設をいかに活用して、日本のスポーツ振興に役立てることができるかが重要となります」
そのためにも都と国は、施設の後利用についてしっかり都民や国民に説明する必要がある。それには行政能力が問われる。
「そして、誰もが分け隔てなく利用できる施設になってはじめて、真のレガシーとなります」
8月下旬、国立競技場を訪ねた。夏の日差し、セミの声。その向こうに立つ競技場が、巨大な墓標のように見えた。(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年9月13日号より抜粋