東京2020オリンピック・パラリンピックが終わった。そして、後には巨大な建造物が残った。この建物をどうすればいいのか。負の遺産にしないための秘策はあるか。AERA 2021年9月13日号から。
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東京五輪・パラのため「恒久施設」として建設したのは、国立競技場など7会場だ。都は大会後も「レガシー(遺産)」として活用する計画だが、公金を投じて建設された施設で黒字が見込まれるのは、バレーボールが行われた「有明アリーナ」(東京都江東区)のみ。
最も多額の赤字が出ると試算されているのが、水泳会場となった「東京アクアティクスセンター」(東京都江東区)だ。大会後は、水泳利用者など年間100万人の来場者と3億5千万円の収入を見込むが、水道光熱費や人件費など年間経費が9億8800万円かかる。差し引き6億3800万円のマイナスだ。
次いで赤字額が多くなるのが、「カヌー・スラロームセンター」(東京都江戸川区)。競技人口が少なく、年1億8600万円の赤字になると試算されている。
こうした施設は今後、十分活用されないままだと、赤字を垂れ流す「負のレガシー」となる可能性が指摘される。
その筆頭が、主会場となった「国立競技場」(東京都新宿区)だ。世界的な建築家、ザハ・ハディド氏の当初案を覆し、1569億円を投じ建て替えた。収容人数は6万8千人と、旧国立競技場の5万4千人を大きく上回る。大会後は民営化を目指す方針だが、メドは立っていない。
問題は維持費だ。修繕費を含めた年間維持費は約24億円に上り、旧国立競技場(年約8億円)の約3倍。巨額投資を回収していくのは至難の業だ。
五輪会場問題に詳しい建築エコノミストの森山高至さんは、こうした状況に陥ったのは「関係者の思考が停止していたからだ」と指摘する。
「本来であれば、国立競技場のような施設は、後利用のことまでしっかり考え設計しなければいけません。ところが長期ビジョンが欠落し、つくることだけを目標にその後のことは何も考えてきませんでした。その結果、無用の長物と化したのです」